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森林ノ牛乳その③ ジャージー牛を飼う理由

一般に乳牛と言うと、白黒もようのホルスタイン種を思い浮かべます。
ホルスタイン種は体が大きく、乳量も多い牛。
世界中で、乳牛として一番多く飼われている牛です。

日本ではホルスタイン種が乳牛の99%を占め、残りがジャージー種・ブラウンスイス種などになります。

ジャージー種は粗食に耐え、飼育に広い面積を使わずにすむことから、面積に限りのある日本で以前は積極的に導入されたこともある牛です。
しかしホルスタインと比較して乳量が少なく生産効率が悪いことから、今では日本全国に10000頭ほどしかいません。

ジャージー牛乳は牛乳の乳脂肪分が高く、こっくりとした脂肪の甘さが特徴。
少し割高になりますが、この乳脂肪分の高さが優位性となり、一般では差別化商品として販売されています。

でもジャージーの魅力はそれだけではありません。

つぶらな瞳と茶色の体、小柄でひとなつっこいその性質。
好奇心が強く、見知らぬ人が来ると近づいていって鼻づらを押しつけ、服を鼻水だらけにするジャージー牛。

森林の再生のほか、将来的に「こどもキャンプ」や「グリーンツーリズム」「森林酪農体験」などの教育プログラムを行う予定の森林ノ牧場には、かわいらしいジャージー牛はぴったりの牛でした。

2009年7月25日にオープンした、栃木県那須郡の森林ノ牧場には、8ヘクタールの牧場(というか森林)に、8頭の大人の牛と、子牛5頭が放牧されています。

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大人牛とは違うエリアでもくもくと草を食べる子牛くん。つぶらな瞳でじっと見つめられると...かわいくてついおつむをなでてしまいます。

この牛たちには、それぞれに名前がついています。
名前で個体を識別するなんてことは、産業動物ではほとんどみられないこと。
一頭一頭を大切にしている、その証でもあります。

牛たちは一日2回搾乳のため牛舎にやってきますが、その時以外は森林のなか、思いおもいに草をはみ、好きなところでのんびり座り、一日をすごしています。

牛舎の中で生活はせず、雨の日も風の日も外に出たまま。
雪の日だってへっちゃらです。

一年を通じて牛舎に入らず、完全放牧で乳牛を飼育している牧場は、現在の日本には数えるほどしかありません。

狭い牛舎に閉じ込められている牛と、広い空の下でのんびり反すうする牛。
「しあわせ」は人間のものさしでしか測れませんが、思いおもいにくつろぐ牛はとてもしあわせそう。
そしてその牛たちの牛乳は、やっぱりしあわせな味がします。

森林ノ牛乳は、完全放牧のジャージー牛の牛乳。
あっさりとして、飲み終わった後にほんのりとした甘さが残り、まるで命の源をいただいたよう。

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そのおいしさの秘密は放牧というだけでなく、牛乳の殺菌方法にもありました。

来週に続く

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森林ノ牛乳 その② 森に牛を放す理由

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現在の日本では、農業の衰退もさることながら、林業も危機的な状況にあります。

林業を営む人々の高齢化と、担い手の不足。
安価な輸入材の使用は、森の手入れをすることすらできないほどの経済的な疲弊を招きました。

以前は、山や森は人が育てるものでした。
そして、春には山菜、秋にはきのこや栗などの木の実、そんな恵みを受け取ることができました。
人と自然は美しく調和していました。

しかし今では、日本の国土の66%をも占める森のほとんどが荒れ果てています。

手入れをしない木々は好き勝手に枝を伸ばし、地面にはおひさまの光も届きません。
森のめぐみなど、受け取るべくもありません。

この森を生き返らせるのに、牛を使う。
そんなことを考えた人がいました。
それが森林酪農です。

では森林酪農って、どんなものでしょう。

まず、牛を森に放すことからスタートします。

体重約600kgもある牛が地面を踏みしめ、下草を食べているうちに、
地面はなんとなくならされてきます。

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手前は牛の入れないエリア。あちら側は牛のエリア。
下草はきれいに食べつくされています。

牛は馬の仲間ですから、急なこう配だってへっちゃら。
どんどん森に分け入っていきます。

地面がならされてきたら、人間の作業が始まります。

好き放題に茂った森の木々を少し間引き、地面におひさまの光が届くようにします。
光が届けば新しい命が芽生えるのは早いもの。
牛の排泄物を肥料分に、小さな命が生まれてきます。

こうして森の更新が始まるのです。

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間伐された切株から新しい芽が。おひさまをたっぷり浴びて、大きな樹へと育ちます。

そうして人間は、手入れされた森林と、健康な牛たちの牛乳を手に入れることができるようになります。
これは決して「自然」な状態ではないけれど、牛と森、そして人間が美しく調和しています。

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のんびりねそべり反すう中...森のあちこちでゆったりとくつろぐ牛の姿が見られます

森の再生と酪農。
全く違うものがふたつ重なり、有機的につながって、できあがるのはとってもおいしい牛乳。

森林ノ牛乳は、このようにして生まれているのです。

次回に続く

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森林ノ牛乳 その①酪農の基礎知識

ひろ~い牧場でゆったりと草をはむ牛たち。
わたしたちが牛乳を思い浮かべるとき、こんなイメージが頭に浮かびます。

しかし実際は、そうではない牧場が多いことをご存じですか。

牛たちは牛舎で日々の大半を暮らし、ときおり運動場でお散歩します。
草や枯れ草が主食の牛に、海外から輸入したトウモロコシなどの穀物飼料を与え、
牛乳の生産量を上げている...これが今の日本の酪農の多くの現状です。

なぜ草を食べる牛に穀物を与えるのでしょう。

草を食べさせる広い土地がないこと
以前は輸入穀物が非常に安価だったこと
穀物飼料を与えると乳量が増えること、
そして、牛乳の価格が安いこと。

エサの価格が安く、一頭あたりの乳量が多ければ、効率よく牛乳が生産できます。
効率を上げることで、安く牛乳を生産することができます。

現在1リットルの牛乳の販売価格は250円~300円程度。
どうかすると水より安いときもあります。

でも。

よく考えてみてください。
牛乳は子牛を育てるためのもの。
言ってみれば「命のもと」。
それが水より安いなんて、おかしいと思いませんか。

山がちで平地が少ない日本。
そこで酪農を営むには、頭数を少なく、効率を上げることが必要でした。
本来は草を主食とする牛に、穀物飼料を食べさせることも技術として必要でした。

でもそれでいいのかな?

そんな疑問をもった人たちがいました。

広大な土地がないなら、山の中で。
山でなくても森の中で。
牛たちは草を食べ、あちこちを歩き回ってのんびり過ごせる。
牛が下草を食べることで、山が、森が、生き返る。

そんな酪農が日本型の酪農なんじゃないか。

この酪農方法は「山地酪農」~やまちらくのう~と呼ばれます。
この山地酪農をベースに生まれたのが「森林酪農」です。

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次回に続きます

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はじめまして えがおマルシェです

はじめまして。

えがおつなげての手島奈緒と申します。
今週から、毎週一回、「えがおマルシェ」で食べものまわりのものがたりを紹介していきます。

このブログをスタートさせた理由を、少しだけお話したいと思います。

わたしたちの身の回りにあふれている「モノ」。
見過ごしがちですが、それぞれ「ものがたり」を持っています。

今まで何気なく食べていたもの、ありふれた風景のように思っていたもの...。
忙しい日常生活のなかで、それぞれのものがたりなど知る暇もなく、
モノは目の前を流れていきます。

たとえば、ここにひとつの野菜があります。

何も知らなければ、ただの野菜。
でも、作る人の顔、その畑、思い...その野菜にまつわるものがたりを知れば
野菜を手にとったとき、畑の土の香りや草いきれ、
そんなことを感じることができるかもしれない。

そのとき「ただの野菜」は「たったひとつの大切な野菜」に変わります。

日本の農業や農村に元気がなくなって久しい昨今、
農村にあまたいた語り手は、今や多くを語ることをやめてしまいました。

そんななか、私たちの暮らしや環境、
食べものの大切さなどを、もう一度考えるために
作り手と食べ手、農村と都市をつなぐ「ものがたり」を語りたいと思います。

私たちの命は食べもので作られている...
私たちの生活は、いろいろな人やモノに支えられている...

そんなシンプルなことを、もう一度感じられるような
イキイキとしたものがたりを紹介していきたいと思っています。

みんなのえがおがつながる、そんなことを夢見て。

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